
日本商工会議所元会頭
日本製鉄名誉会長
三村明夫
Mimura Akio
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急激な職場の高齢化が進んでいます。特に人手不足が深刻な課題となってきた中小企業においては、シニア社員の方が健康を維持して、フレイルを予防し、いつまでもパフォーマンスを発揮して社会参加していただくことが、企業・個人・社会のために必須です。シニア社員の健康や、社員の未来にまで配慮できる企業姿勢は、時代に即した新たな企業価値でもあります。経営者、働く人双方の意識の向上と変革が求められています。それぞれの職場で、それぞれの地域で、さまざまな知見やインフラを活用しながら今日から取り組んでいただきたいと思います。

公益社団法人日本医師会
副会長
茂松茂人
Shigematsu Shigeto
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シニア期における病気の早期発見とその対応は必須です。気軽に相談できる、かかりつけ医を必ず持っていただくことを強くお勧めします。継続的な視点で関わっていることから、過去の健康状態から未来への予測を含めて最適なアドバイスができる唯一の存在だからです。例えばシニア期以降いくつもの病気を併発した場合、必要な専門的な医療への紹介を含めて、かかりつけ医の役割が必要になります。もうひとつ大切なことは、健康に不安を感じた時、職場にそのことを共有できる理解のある環境があるかという点です。守らなければならない大切な自分の健康。いつまでも生きがいを享受できるために。

公益社団法人日本歯科医師会
専務理事
伊藤智加
Ito Tomoka
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歯科疾病は自己治癒はありません。そのため、早期発見・早期治療が重要となります。歯と口の健康は全身の健康に大きく影響します。そのことから、歯科健診による早期発見は国民の健康増進および健康寿命の延伸には欠かせないものです。口腔機能の衰えは「食べる」という機能の低下だけではなく、心身の機能低下につながる負の連鎖とまでいわれます。いわゆるオーラルフレイルを予防することにより、フレイルそして要介護状態へのドミノ倒しを止めることができるかもしれません。若い頃よりかかりつけ歯科医を持ち、日頃から健診を受けて口腔健康管理を行うことが大切です。

公益社団法人日本薬剤師会
副会長
原口亨
Haraguchi Toru
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60歳は人生の節目であると同時に、まだまだ社会や職場で活躍できる大切な世代です。だからこそ健康と仕事の両立が重要になります。薬剤師はお薬の安全な使い方を支えるだけでなく、生活習慣全般についても気軽に相談できる存在です。複数のお薬を使う場合には飲み合わせを確認し、副作用を防ぐサポートを行い、必要に応じて医師へつなぐ役割も担います。また職場に健康への理解が広がることで、安心して働き続けられる環境づくりにもつながります。私たち薬剤師は、地域と職場の両面から皆さまがいきいきと過ごし、生きがいを持って働けるよう、60歳からの健康経営を応援しています。

公益社団法人日本看護協会
副会長
勝又浜子
Katsumata Hamako
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看護職員は病院や診療所などの医療機関に勤務するだけではありません。地域の保健所や保健センター、また一般企業に勤務して、勤務と治療の両立支援、労働者がより健康になるための保健指導、労働環境の改善などを行っています。少子化の中、60歳を超えてからも社会に貢献することは重要です。私たち看護職員はそんな人々のサポートをこれからも行っていきたいと考えています。私たち看護職員も「プラチナナース」といって、シニア以降も社会に貢献し続けることを希望する方が増えています。

公益社団法人日本医師会元副会長
医療法人社団聡伸会今村医院理事長
今井聡
Imai Satoshi
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あらためて国民の皆さまにお伝えしたいことは、優れた日本の国民皆保険制度を未来にわたって維持していくことの大切さです。国民皆保険制度を守っていくためには、すべての国民が高齢になっても健康で生きがいを失わず、社会と積極的に関われる健康長寿社会を実現することが重要で、そのためには今ミドル・シニア世代の方への健康を守るための啓発活動が必要になっています。当法人はこれから定年を迎える世代の皆さん、また60歳を過ぎても働き続けている皆さんとそのご家族の健康を守るための学習素材を制作し、職域にご提供すること、また、さまざまな保健活動の情報をご紹介することを目的に設立されました。「健康」は、医療者だけで守れるものではありません。広く職域や自治体の皆さまに普及のためのご協力をいただけますことを、切にお願い申し上げます。

国際医療福祉大学大学院特任教授
大林尚
Obayashi Tsukasa
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2025年の5月、92歳の誕生日を迎えてからほどなくして父が生涯を閉じた。その半年ほど前に入居した老人ホームの自室のベッドで、眠っているあいだに亡くなった。死因は老衰。この数年、足腰を傷めたり胃がんの手術を受けたりと、必ずしも体調万全とは言えなかったが、それでも私たち家族に大きな負担をかけることなく終末期をすごした。
いわゆる昭和一けた世代の父は、ごく一般的なサラリーマン人生を歩んだ。高度成長期は会社の中堅どころとして猛烈に働いていた。当時ほとんどの男がそうであったように、ショートピースをぷかぷか吸っていた(のちにセブンスター、そしてマイルドセブンへと銘柄を変えたが)。
一方で、ふだんから速足でよく歩き、好き嫌いなく何でもよく食べた。60歳定年の数年前に勤め先を退職し、請われて同業の会社に再就職し、フルタイムではないが70歳まで働いた。その頃には煙草もやめていた。引退後は謡曲の稽古に精を出し、それが高じてお能の舞台に欠かせない大太鼓を叩いたり、能面を打ったりもした。
大きな病気はほとんどしなかったが、前述のように89歳のときに胃がんがみつかり、専門医の診断を受けて内視鏡手術で病巣を摘出し、寛解した。執刀医は「今後5年間、がんで亡くなることはないでしょう」と太鼓判を押した。
永年親しくしている医師に父の最期の様子を聞かれ、ありのままに話したら「お父上は理想の死に方ですよ」と言われた。そして「あなたもその血を受け継いでいるのだから、長生きして自然に死ななきゃだめですよ」と付け加えた。
会社勤めの身にとって定年後をどう生きるか。さまざまな選択肢があるとはいえ、したいことを存分にする要諦はやはり健康人でありつづけることに尽きる。先立つものは不可欠だが、心身に不調を抱えていてはその使途をしたいことに振り向けるのがむずかしくなる。もっとも適度な運動、心地よい睡眠、バランスの取れた食事——と、健康を保つ要素をまっとうしつづけるのは、容易ではなかろう。強い意志の継続が試される局面だ。筆者もその例外ではない。
悔いのない最期を迎えるために、そのような人間の弱さを克服しようとする努力が決定的に重要なのだ。「60歳からの健康経営」は、そのよき伴奏者のひとりとなろう。
父は最晩年、時折「ぼくはこんなに長生きするとは思っていなかった」と、口にすることがあった。私もそんな気持ちになれるだろうか。